慧喜~Trip of the art

鴨居玲展(3)

前回に引き続き、鴨居玲展についての記事です  (前記事の鴨居玲展(1)はコチラ、鴨居玲展(2)はコチラ

東京ステーションギャラリーで開催していた鴨居玲展、
東京での会期は終了しましたが、見応えがあり、
本当に行ってよかったと思える展覧会でした

東京ステーションギャラリーは、いわゆる「駅ナカ美術館」で、
東京駅丸の内駅舎内にあり、利便性のいい場所にあります
東京駅丸の内駅舎創建は大正3年ですが、
東京大空襲による被害跡を、5年半に及ぶ保存・復原工事を得て
2012年に、創建当時の姿になりオープン

建物の内部は、創建当時の煉瓦をできるだけ残されているのだとか。
駅舎同様、煉瓦も重要文化財の一つになっているのだそうです。
ギャラリー内の煉瓦で敷き詰められた、重厚で堅牢な空間は
鴨居玲さんの作品にぴったりだったと思います
鴨居玲展 ギャラリー内(借用画像)
展覧会を紹介している記事からお借りした
ギャラリー内の画像です。素敵ですよね


私にとって、今回の鴨居玲展で一番印象に残ったのは、玲さんの残したデッサン画でした
前記事の鴨居玲展(1)と鴨居玲展(2)で、玲さんの油彩画作品をたくさん紹介させて頂きましたが、
重みのある画面が実現された作品は、玲さんのデッサン力の確かさによって支えられていたと思うのです。
師である宮本三郎氏の教えに従い、生涯デッサンを怠ることなく、
「指にデッサンのタコが出来ていないのは画家ではない」というのが、玲さんの画家としての姿勢だったとか

デッサンの中でも、速写技法であるクロッキーを好まれていて、
どこにいても、常にスケッチ帳を持ち歩き、人間の顔や体をとことん繰り返し描くことで
自身が求める画面を作るために、力強く自然に描きだすことのできるイメージを体に植えつけようとしたのだとか。
滞在したフィレンツェでも、美術館のデッサン室に熱心に通い、パリでの裸婦デッサンも欠かさなかったそうです

玲さんのデッサンで特徴的なのは、時間と空間を凝視することによって、自身が心惹かれる魅惑的な瞬間、
玲さん曰く「ギュっと凝縮するような一点」を、思うがままに描いていくということ

子供の頃や学生の頃からモデルを使ってデッサンしながらも自然にある部分を強調していますね。モデルを離れて。
必ずしもドラマティックじゃなくて、ギュッと凝縮するような一点がないと、無意味に思えてきましてね。
だから、途中からモデルをよく離れます。どんどん離れて、自分で作り直していくようなところがあります。

と、玲さんは語っていたとか。

蛾
≪蛾≫1967年
月に叫ぶ
≪月に叫ぶ≫1973年


鴨居玲さんは、デッサンを描く時、徹底して「見る人」であったといいます。
それは、描く対象を見るだけにとどまらず、徹底して個である自分の内面とも対峙することでした。

たとえば浮浪者を描くとする。しかし、その浮浪者を写生したことは一度もない。またそんなことはできないし・・・・・・。
かたちを借りるだけで私の中でつくりあげた人間なんですよ。つまり、私の自画像のようなものですね。
だから、実在のモデルなんていやしない・・・・・・。
あのねえ、そう、何というのかなあ、どうにもならない時があるでしょう。
助けて欲しい時、よくありますね。自分の人生の中で・・・・・・。どうしようもない時がね。
そういう瞬間を浮浪者の姿を借りて描いている・・・・・・。


興味があるのは人間だけですからね。学校時代にも風景とか石膏デッサンは嫌いでした。
生きてる目的、人間という不可思議なもの、それが女性であってもいいですけどね。
とにかく人間が好きなんだな、私は。それから、いままで若い人を描かなかったのは皺がないんですよ、彼等には。
人生の何かが出てこないんだな、のっぺらぼうで。
老人の皺には彼等の何十年間か生きてきた、人間のいろんなものがあらわれている。

という玲さんの言葉が残されています。
(記事中の、玲さんの言葉は全て画集からの転載です)


踊り候え1
≪踊り候え≫1979年
踊り候え
≪踊り候え≫1974-75年


鴨居玲さんは、背が高く目鼻立ちの整った容姿に恵まれた人でしたが、
(実際に外国の街を歩くたびに、振り返る女性が多かったみたいです)
酔っ払いや浮浪者の姿に、自らを重ね合わせる自虐的な内証を持っていたように思います

玲さんにとって描くということは、社会から締め出される疎外感や孤独といったものを、
酔っ払いや浮浪者の姿を借りて描くことで、自身が「生きている証」を見出す作業だったのではないか・・・と思います
そして、疎外感や孤独といったものは、私達が社会や日常において常に対峙する感情でもあり、
玲さんの絵に、共感を覚えたり引きずり込まれそうになる人が多いのは、描かれた姿に自分を見るからではないだろうか?

そして、その人間の心の本質を掴みだした絵には、そこに裏打ちされる玲さんのデッサン力の確かさを見ることができます。
玲さんにとって、自分の求める世界を表現するために、自己凝視を磨き上げていく絶対的な方法こそがデッサンでした。
ひとつの作品を描くために、100枚のデッサンを自らに課していたといいます

自己研鑽を積み上げていくこと。
生涯をそこに賭けてきた思いが、デッサン画を通して観る方にも伝わってくるようです


酔って候 デッサン
≪酔って候≫1979年
裸婦
≪裸婦≫1978年


玲さんの残した言葉の中で、私が一番好きなのは、
自分の絵が鑑賞されるという事態を想像した事もありませんでしたし・・・・。
だから自分にとって興味のある瞬間の凝縮した表情にしか描かなかったんです。
」という言葉です。

玲さんの画業人生は、初めから自分の心の声のみに従って描いてきたものでした。
つまり、自分の感覚、自分にとって一番ふさわしい描き方というものに忠実であり、それらが全てだったのでしょう
デッサンにおいて色々な表現方法がある中、どんな様式にも玲さんは影響を受けることがなかったのです。

徹底的に、デッサンを通して人間の心の本質を追求、ひいては自己を追求していくことは、
玲さんにとって、当たり前のように自然であり、描きたいものの焦点だけを求めて描いてきた画業人生だったのです

それは、あらゆる絵画の様式や既存の美学から外れてることであったかもしれません。
しかし、己だけを信じ突き進んできた玲さんの絵は、年月を経ても、いまだに多くの人の心を掴みとっています。
私が、鴨居玲さんに憧れるものがあるとしたら、そういうところだと思います・・・


道化師1
≪道化師≫1979年
道化師2
≪道化師≫1984年


玲さんのデッサンを見ていると、一つ一つが「完全燃焼」しているように見えます
はたから見て未完成に見えるものでも、一番美しい状態で止まっているかのよう。

今回、玲さんの遺されたデッサン画を見て、正直私は自分のふがいなさに泣きたくなり、そして大いに反省しました・・・
忙しいから、時間がないから絵が描けないなんて、言い訳・・・・・・。本当に自分は甘いなと頭を打ちました。
そこで、毎日クロッキー&デッサンの練習をしようと、100均でスケッチブックを大量に購入・・・
先のことは分からないし、努力しても結果に結びつくとは限らない・・・かもだけど、
”今日”という日は、自分の人生の中で一度しかない、一日一歩でも前にいきたい、いや、半歩でもいいから進みたいのです


最後に、心に残った玲さんの言葉を・・・
私の性格として、いや全くの本能的なものとして、“飛ぶ前に見る”人をどうしても信ずる気になりません。
とかく飛ぶ前に見る人は、とても美しいすりかえの論理を使用する時がある故にです。
 しかし、“飛んでから見る”という人生。これはホンマのところしんどい事であります、実感です。
たぶんフルいと、若い方に言われるでしょうけれども、
私には、これしか、この方法でしか“生きようが無い”“生きる意味が無い”といった人生を、
少なくとも物を創ろうとする人間はえらぶべきでしょう。




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今回、鴨居玲展についての記事を作らせて頂くにあたって、色々と調べていく中、
茨城県笠間市にある笠間日動美術館という美術館の存在を知りました
東京・銀座にある日動画廊さんが、母体となっている美術館ということで、
画廊の創業者ご夫妻が、1972年(昭和47年)に故郷である笠間にて開館されたのだそうです

日動画廊の現在の経営者ご夫婦と玲さんは、公私共に長くお付き合いがあったのだとか
日動美術館では、鴨居玲没後30年を記念し、今月初めから常設展「鴨居玲の部屋」が始まったとかで
未完の自画像をはじめ、大作の構想を練るため使用したテーブルや、愛用の椅子などが展示されているそうです





↑ ↑ 東京ステーションギャラリーで展示されていた、玲さん遺品のパレットも日動美術館に所蔵されているものなのだとか。
色とりどりの油絵具が、山塊のように盛られた鮮やかなパレット・・・ 玲さんの苦悩の顔まで美しく見えてしまう・・・笑

日動美術館には、国内外の著名画家が愛用したパレットコレクションなるものが常設展示されてるのだそうです
日動画廊創業者の方が、親交を深めた画家たちに願い出て愛用のパレットを譲り受けたことに端を発しており、
以来、画家本人や遺族などから寄贈が続き、現在では340点を超え、美術史的にも貴重なコレクションとなっているのだとか。

笠間といえば、昨年のお正月に、三が日を明けて笠間稲荷神社にお参りに行ったことがありました
(関係ないけど、笠間稲荷の名物?「そば稲荷」が美味しかったです!甘いお揚げの中にお蕎麦が入ってるやつ・・・)
決して近くはないんだけど汗、遠出のドライブがてらに是非とも足を運んでみようと思います

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鴨居玲展について、(1)(2)(3)と長々とした記事になってしまいました
この記事を通して、一人でも多くの方に鴨居玲さんのことを知って頂ければ・・・と思います
いつも訪問して下さる皆様、新規で訪問して下さった方々、最後まで読んで頂いて本当に有難うございますっ


東京ステーションギャラリーでの会期は、終了しましたが、
それ以降は、2015年12月まで、北海道立函館美術館石川県立美術館伊丹市立美術館を巡回予定とのことです


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コメント

こんばんはー^^


読み応えのある素晴らしい記事をありがとうございます!


記事中にある『疎外感や孤独といったものは、私達が社会や日常において常に対峙する感情でもあり、玲さんの絵に、共感を覚えたり引きずり込まれそうになる人が多いのは、描かれた姿に自分を見るからではないだろうか?』という慧喜さんの言葉。

わぁ、すんごい鋭い考察だなぁと思いましたし、私も同感です(*^^)v


鴨居玲さんという方は、その『人生』において玲さんの中でさまざまな葛藤や感情、不安定さなどあったと思いますがそれでもなお、玲さんご自身は画業において『幸せ』であったのではないのかなぁと、今回の記事を読んで私は思いました。

絵描きにとって、『描きたいものに焦点をあてそれだけを求めて描く』ということは、絵描き冥利につきるのではないかなと思うからです。

なんとも凄い人ですね・・・・・

飛んでから見る

慧喜さま、こんにちは。
この最終回ではデッサンの深さを学んだ気がします。
大切さは誰しも分かっているけど・・・
この記事で改めて感動した私の受け止めをMEMO
・モチーフを離れ自分で創り直す。
・描き写す技で無く自分に問い自分を見つめる。
・観賞用なのか自分の皺が見て取れるか。
等々ちょっと意味不明ですが・・・
「心の本質を追求、ひいては自己を追求」デッサンといえど侮れませんね!!

慧喜さん「飛ぶ前に見る」ではなくて、まず100均で「飛んでから見る」
この頑張る姿、応援しま~す。頑張って自己を見つめてください。

最後、パレットの玲さんの顔、消えるのにお遊びで描かれているのですか?

読み応えのある内容でした

今日和。
読み応えのある内容で、(3)までしっかり読みました。

鴨居玲展、行ってきました。

デッサン画と言うより、ひとつの作品と呼べる迫力でしたね。

デッサンの大切さをヒシヒシと感じました。
技術の拙さを自覚しつつ、心情は鴨居氏に近づくべく私も精進していこうと思います。

これからも記事を楽しみにしています。

真知子さん☆

真知子さん☆

コメント有難うございます!

<描かれた姿に自分を見るからではないだろうか
<そうなんですよね><
自分の心の奥を、引っ張り出される感覚なんです。
「道化師」を描いたものなど、自分の姿を重ね合わせる人も
いるんじゃないかな・・・?
生きてる限り、人は仮面を被らざるを得ないことあると思うし・・・

でも、玲さんの絵は、そんな自分を肯定してくれるような
感じがして、そこがいいなと思います^^

<『幸せ』であったのではないのかなぁと
<私も、そう思います!
最後は自死されましたけど、それすらも画業と同様に
自分の想いに沿っていたことだったのではないかと。

滅びの美学といえば大袈裟かもしれないけど、
満開の桜が、散っていくのを美しいと思うが如く・・・
だから、画業も自死も望みどおりだったのではないか・・・?と。
全うした生の証である自死だとも思いますし・・・

描きたいものに焦点をあてそれだけを求めて描く、というのも
すごく難しいことだと思うんですけどね^^;<孤独な戦い
でも、最期まで自分の想いを貫きとおす人生であったことは、
結果論になるけども、やはり幸せだったのではないか?と思います><

*:.ア♥*♥リ♥*♥ガ♥*♥ト・*(♥ó㉨ò)ノ

mnsuisai さん☆

mnsuisai さん☆

コメント有難うございます!

<デッサンの深さ
<そうですよね!
私も改めてデッサンの持つ意味や深さなど
感覚的にですが、改めて重要性を認識したというか・・・

<モチーフを離れ自分で創り直す。
<描き写す技で無く自分に問い自分を見つめる。
これは、鴨居玲さん流であるところが大きいと思うんですけどね^^;
でも、描き方に決まりはないということを
とても教えてもらったように思います。
デッサンって、形を綺麗に仕上げるとか
そういう技術的なことではないんだなと思いました。

<まず100均で「飛んでから見る」
<紙だったらチラシの裏とか
失敗したコピー用紙とかでもいいかな?と思ったんだけど、
ちょっと、それでは気分が出なくて・・・笑
デッサン&クロッキーの練習、頑張ります!

<パレット顔、消えるのにお遊びで描かれて
<お遊びではなかったと思いますよーー;
詳しくは分からないけれど、今後使わないことを
前提として描かれたのじゃないでしょうか?
他にも玲さんの遺したパレットがあるのですが、
帰国後の神戸時代のものなど、
裏に「苦しかった」と書かれているものもあります。
創作の軌跡を表したオブジェクトみたいなものではないでしょうか?

ところで、調べていくうち知ったんですけど、
玲さんてひろしま美術館の雰囲気を好まれていたそうで、
ティールームのテラスで寛がれてたこともあったみたいです笑

ヾ(◕‿◕✿)【。゚+♫ア♥リ♥ガ♥ト♫。゚+.】(✿◕‿-)ノ゙

ek03 さん☆

ek03 さん☆

訪問&コメント有難うございます!

(1)~(3)まで長い記事を読んで頂いて感謝です><

鴨居玲展行かれたのですね!
私も観にいくことができて本当に良かったと思います。
美術館の雰囲気も良かったですね^^<煉瓦
あそこに住みたいとか思ってしまいました笑

<デッサン画と言うより、ひとつの作品
<本当にそうですよね・・・!
油彩画も素晴らしかったのですが、
私はデッサン画の方に惹かれました。
デッサン力があるから、素描に近いものでも
あれだけ力強く説得力のあるものが描けるのでしょうね><

<デッサンの大切さをヒシヒシと感じました。
<私も感じました><
そこが、今回の展覧会に行ってよかったと一番思えるところです。
難しいことは分からないのですが、感覚的に、
デッサン力を高めることの必要性、重要性を感じました。
単なる技術の習得とかではなく・・・

「デッサンの王道。描き方が先にあるのではない。
見方があって描き方があるということ」
という文章が画集に載っていて、なるほどと思いました。
鴨居玲さんは、この実践者であったと・・・。

<心情は鴨居氏に近づくべく私も精進して
<ek03さんも何か創作の活動をされているのですね?
全く私も同じ思いでいます><

これからも気軽にご訪問ください^^
記事作りを通して、私も勉強になることが多いのです♪
更新がかなり遅いのがネックですが・・・汗

ღ(๑☻ܫ☻)ア✿リ✿ガ✿ト✿ウ✿(☻ܫ☻๑)ღ

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慧喜

Author:慧喜
広島県出身 関東住みです。
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